土曜日, 8月 22, 2009

海賊と呼ばれて

WFP(国連世界食糧計画)のメールニュースを購読していて、たまたま目に付いた"ソマリアからの報告"。
そこからなんの気無しにソマリア関連のネットサーフィンをして知ったこと。

●ソマリアの海賊って誰?
気の毒な写真。
ネットで、ソマリアの海賊の写真を探してみると、海賊の方が気の毒だ。
ニュースでは「凶悪」「組織的」「海賊は母船からボートで接近し攻撃」などと報じられているが、その、母船ですらこんな小さな船の写真しか見つからなかった。
沖縄の離島に向かうフェリーの方が、よっぽどでかい。
ちなみに海賊退治の軍艦の写真はこちら。
Japanese frigate helps Maltese ship off Somalia



●海賊の起源は漁師達?
ソマリア・アデン湾地域のこんな歴史を見つけた。
(東京新聞の1月19日付け『本音のコラム』欄の記事を引用したとの情報が多かった。)

①豊かな漁場のアデン湾で漁をして暮らしている地域住民がいた。

②外国船団による海洋資源搾取。

③(揉め事が増えたためであろう)外国船団がソマリア人民兵を雇い"安全に"操業を継続。

④混乱するソマリア政治状況に乗じ、有毒廃棄物をアデン湾沖に投棄する外国船団も現れるようになった。(外国船団を抱える企業のいくつかは、時のソマリア政府と契約し投棄は法的に許された状態になった。)

⑤2005年のスマトラ沖地震津波により、外国船団が海洋投棄し海底に沈んでいた放射性廃棄物と有害な化学物質が沿岸に拡散することになり、アデン湾地域住民に健康被害を及ぼすことになった。この事態を迎え、ようやく、国連は調査を開始した。

⑥この地域の漁師達は、「海賊行為」とされる事をするようになった。

●イメージのギャップ
これって、もう聞き飽きたほどの
『アメリカ型経済至上主義が貧しい地域で搾取』
→『貧しいながら生活を支えた地場産業の崩壊』
→『壊した連中に対するテロ』
の構図だ。

事の真偽や見方はいろいろあるだろうが、先に紹介した「軍隊が捕らえた海賊母船の写真」を見る限り、先端技術の粋を集めた巨大な戦艦を向かわせる事に、とても違和感を感じる。
この話を知るまで、ソマリア沖海賊のイメージは、少なくとも母船には数十人から数百人の海の猛者達がいて、その上で、近代的な武装もしている、そんなイメージだった。
だから世界中から軍隊が行くんだと、勝手にアホな理解をしていた。

●圧倒的な武力を使うお金を回せないのか
圧倒的な武力を行使するための「予算」を、単純にあの地域に配ることが何故できないのか。海賊業に従事する人達が、危険を冒すことなく生活ができるなら海賊業は廃業するだろうに。。。少なくとも僅か十数年前までは海賊業以外の仕事で生活してきたのだから。

本当に、ソマリア地域の漁場を荒らし、地域住民へ健康被害を及ぼしたことが事件の本質だとすれば、漁場を荒らした企業が責任を認めれば、何らかの形で、武力行使にかかる予算の代わりに、あの地域に償いができるのに。。。

●こちら側の論理
資本主義というのか経済至上主義で企業は「法的に問題がない」中で利益を追求し続けている。
「道徳・倫理的に問題がある」事が明らかでも、「法的に問題がない」なら企業は手を染めがちだ。
法が未整備であれば、間違いなく、食品偽装だってなんだってやり放題の社会がこちら側だ。
法的に問題がなければ企業イメージを損ねない限り儲けてナンボの社会だ。
そして、企業イメージに左右されない企業の方が数は多いわけだから、世の中全体としては、法的に問題がなければ何でもアリ、の社会なのだ。

事実、地域に健康被害をもたらした廃棄物を投棄した会社は、法的には問題がないと思われる。
倫理的には考えにくいが、今もなお、この地での廃棄物投棄ビジネスを続けているとしたら、むしろ、民兵を雇う必要がなくなって、利益が増えているかも知れない。
株価も上がっているかも知れない。

●海賊の家族
こっちの社会が海賊と呼んでいる人達にも家族がいて生活があって社会がある。
支えなければならない家族がいて、未来を託したい子供がいて、生涯を共にしたい伴侶が居る。

何処の国だか聞いた事もない国の船がやってきて、漁場を荒らしていった。
何処の国だか聞いた事もない国の人達の生活を潤した結果のゴミのせいで、家族の健康まで奪われた。

治療を受けさせたい。奪われた健康を取り戻したい。
納得のいくはずのない病気なのだ。なんとしても治療を受けさせたい。

漁もできなくなった海。漁ができず、生活は一層苦しい。
治療どころか、日々の食料に困る日々。

そんな時に視界に入るのは、遠く沖を行き交う、外国のタンカー。
残されたのは、つい数年前まで現役で使っていたのに、今は浜に打ち上げられたボート。

。。。ということなら、「今どき海賊!?」も、納得がいく。

何百年も続いてきた生活の糧を搾取された代わりに得た生活はどんなものなのか。。。
彼らからみれば、僕は搾取した側の社会に暮らす人間でしかない。
海賊と呼ばれずに「漁場を奪われた元漁民達」と伝えられていれば、彼らの行動も、こちら側の対応も変わったかも知れない。

ニュースで、
「西側先進国のソマリア沖への廃棄物投棄により漁場と健康を奪われた、とするソマリアの元漁師達が、西側先進国向けのタンカーを占拠し、代償を払えとの抗議をしています。」
と報じられれば、見方も変わったかも知れない。


●できること
何もできない。
せめて、自分の住む地域のモノを食べることを心がけたいと思った。
近所の八百屋さんにはこれからもお世話になります。

なんか情けないけど、それ以上のことは直接何かできるわけはない。
ただ、こちら側が海賊と呼んでいる彼らが、こちら側を「窃盗団」「破壊者」だと思っているかもしれない。
それだけは肝に銘じておこう。


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※1/19付け東京新聞 堤未香氏の『海賊の正体』という記事からの抜粋
 ソマリア海域の海賊事件が急増し、国際海事局が各国に協力を呼びかけている。海上自衛隊派遣の議論が高まる中でふと思う。そもそもこの「海賊」はだろう何者なのだろう?

 UNEP(国連環境計画)の職員ニック・ナトール氏は英紙のインタビューで、1990年代初めに欧米の大企業がソマリアの政治家・軍幹部と交わした廃棄物投棄協定について指摘する。

 内容はそれらの企業が今後ソマリア地域沿岸に産業廃棄物を投棄することを認めるというものでだ。その後、放射性物質に汚染された地域住民数万人が発病。国連が調査した結果、有害化学物質によるものであることが明らかになった。海域を汚染する外国企業に生活手段を奪われ、いくら訴えても動かない国連に見切りをつけたソマリア漁民は自ら武器をとり、やがては「海賊」と呼ばれるようになったという。

 別な立場の人々に目線を合わせる事は、時にもっと大きな敵の存在に気づかせる。あるイラク帰還兵は私に言った。「本当のテロリストは誰なんだ?」と。

 現実に起きている惨事への対応は待ったなしだ。そこに至る状況を作り出してきた時系列での丁寧な検証は、毎日各地で罪のない人々の血を流し続ける紛争の類似性と、欲望が作り出すもう一つの世界地図を浮かび上がらせるだろう。真の歴史教育が変革を後押しする。(ジャーナリスト)

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