金曜日, 2月 17, 2012

1800年奴隷貿易廃止、2001年エンロン崩壊

『アメイジング・グレイス』(原題: Amazing Grace)を観た。
その翌日、『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』 (Enron: The Smartest Guys in the Room)を観た。

二つの映画の舞台は国も違えば200年もかけ離れた時代なのだけど、どちらも、今この時点でも学ぶべき点が多い映画だ。

例によってあらすじは→
アメイジング・グレイス
エンロン

僅か数年前のドキュメンタリー、エンロン。


ありとあらゆる、会計、経営指標、マスコミ対策、などなどのテクニックを駆使、そのテクニック自体がイノベーションとも言えるほど独創的なのだけど、肝心の実業部門は全くの大赤字。
全てのテクニックは、大赤字を隠すために創りだされたのだ。
要するに「詐欺」だ。

自社や関係会社の社員数万人を失業させ、詐欺と知っていながら関わった"同じ穴のムジナ"「証券会社」「監査法人」「法律事務所」なども事件が解明されるとともに多くがその事業を潰すこととなった。
そして、破綻発覚と時を同じくして経営陣の一人「経理責任者」が自殺(とされている)している。

一番ショックなのが、エンロンがM&Aを繰り返す中、堅実な電力工事事業を手がける会社を買収する話だ。
何十年もその会社で電力工事をする年配の作業員。日々トラックで現場を回って修理に追われている。

その電力工事会社がエンロンに吸収され、ほどなくして、エンロンは破綻する。

数十年、日々マジメにリアルに働いていた作業員。
彼の数十年の年金も積み立てていた退職金も吸収先の見知らぬ会社の不正で消えてしまう。

一方、エンロンの中枢にいた人の多くが破綻の匂いを嗅ぎつけると同時に、高額な退職金と共に会社を去ったり、自社株を売り抜けたり、とにかくケタ違い(数十億円、百億円を超す人も)の資産を築いているのだ。
その高額の収入・資産は、前述の現場の人達が数十年もかけて積み立てたものが含まれている。

一般的には、これは例外的な企業の話、とされている。

しかし、具体的に法を犯していないだけで、数年間の赤字を続けて高額の退職金を得て退任する社長の話なんてゴロゴロ転がっている。
今月退任を発表した名士ハワード・ストリンガーさんは、この7年間の年俸は8億円だったそうだ。
7年で数十億円の収入を得たわけだ。
そんな彼がこの7年間社長を務めたソニーの直近の4年間は赤字だ。昨年は2200億円の赤字だそうだ。

去年話題になったアメリカの自動車業界もそんな感じだった。
倒産寸前なのにプライベートジェットで税金投入をお願いに来ていた。
これはさすがにメディアに叩かれたけど、高額の報酬を返還したというニュースは聞かない。

プロジェクトマネジメントであれば、「与えられたリソース(人・モノ・金)」の制約の中で目的を達せなければならない。
が、社長業には、「前提を覆す(与えられたリソースを削る/増やす、目的を変更する)」権限が与えられ、その上、成果が出なくてクビになっても一生どころか何世代も安泰の報酬が支払われる。

先ほどのエンロンのM&Aに応じた電力工事会社の経営陣は、買収の結果一財産を築いたかもしれない。
悪意はなかったとは思うが、結果、社員の個人的資産をマネーロンダリングして自分の資産にしてしまったわけだ。

暴力で他人に金を出させる。
錯覚を利用して振り込ませる
投資と称して払わせる。

預貯金の管理団体(退職金積立や年金基金とか)ごと吸収して払わせる。

目に見える暴力がないだけ、迂回しているだけで何ら変わらない。
日本の"消えた年金"も構造は同じなんだろう。

。。。
200年前のドキュメンタリー、アメイジング・グレイス


エンロンを観る前日に、たまたま「アメイジング・グレイス」を観ていた。
これは、数百年続いた奴隷貿易廃止に貢献したウィリアム・ウィルバーフォースの半生を描いたものだ。

200年前のイギリス。
当時は正当な経済活動とされていた奴隷貿易を「人道に反する」として、その歴史を転換させた話。

ちなみに、有名な歌「アメイジング・グレイス」は賛美歌のメロディーに奴隷船の船長が自らの罪を悔いて歌詞を付けたものだそうだ。
当時の奴隷船は、長い航海中に拘束された奴隷たちの半分以上が航海中に死んで捨てられる事も少なくなかったという。
女性の奴隷は拘束したまま船員に暴行され、海が荒れると船を軽くする為に弱っている奴隷を捨てる、それが奴隷貿易の現場だったのだ。

。。。

現場を見れば、本質がわかる。
億万長者、の懐に入ったお金が何処からきたのか、がとてもとても重要だ。

今の時代、ましてや先進国で人道に反する社会なんてあり得ないと「無視」するのは簡単だ。
今の常識では、経済弱者と奴隷は違う、と感じるだろう。

でも、お金に魅入られた人達は、経済弱者から更にお金を吸い上げても全く気にしない。
その結果、現場で何が起きているかなど気にしてられない。

これは、奴隷貿易が当たり前だった時代に、奴隷とされた同じ人間を、家畜のように扱ったていた社会と大した差はない。
みんな何が起きているか、知らないふりをしているだけ。

100年か200年後、いや、数百年後かもしれないが、今常識とされるM&Aなど企業活動のあり方そのものが、
「人道に反する活動」
とされるかもしれない。

※人間は自分の置かれた環境次第で、どこまでも残虐になれるという心理テストがある。
 が、一方で、どんな環境にも屈しない人達がいたおかげで、ほんの少しだけ進歩した現代社会があるんだなぁ。
↓この動画はとっても良い

0 件のコメント: