水曜日, 7月 01, 2009

何のための仕事

企業幹部の転職にまつわる訴訟のニュースを度々目にするようになった。

●止まらない人材流出
終身雇用はもはやほとんどの企業で死語となり、幹部社員ですら「忠誠」などということはナンセンスなのだ。企業は、有形無形の情報やスキルの流出を嫌い、訴訟を起こしてでも転職者からの情報やスキル流出を防ごうとする。

。。。企業として当然の活動のように見えるがそうだろうか。
「企業幹部が転職」という事は、その幹部本人の転職というニュースサイトの字面では語られない面があるように思える。

企業幹部というからには、その企業全体、あるいは主要業務における道筋をつけてきた人であろう。その人が企画や計画した方針、その人自身に、たくさんの一般社員が従い、中には身体を壊したりしつつも、付いてきていたはずだ。
もっと単純化すれば、戦争のさなか、最前線の指揮官が、明日からは目前の敵の指揮官になると言うことだ。

あるいは、ライバル企業を潰す一つの方法という見方もできる。
企業買収を仕掛け、買収できないならキーとなる人材を引き抜く。
個人の職業選択の自由が優先されるなら、この手法は効果的だ。

●不健全な競争
いずれにせよ、企業の"健全な"競争かといえば、疑問を感じてしまう。
前線を離脱し寝返る指揮官、お互いに相手兵士を買収する軍、、、
どう考えても戦争のさなか指揮官が敵に寝返るのは不健全きわまりない。
とここまで書いて、日本の新聞業界にも似たような話があったなと思い出した。

どういう事かというと、宅配の新聞は、定期的にライバル紙と交替して購読した方がお得だという事。
それは、新聞業界が短期であっても新規顧客に対するサービスを手厚くしているからだ。
半年おき、いや、三ヶ月おきに適当に交替していれば、契約都度数千円分の洗剤やお米やビール券が貰えるのだ。
「ずーっと、親の代から○○新聞なので他は読みません。」なんて顧客は、事実上、最も優先順位の低い顧客、でしかない。

●置き去りにするモノ
話を戻して、企業幹部の転職。これも何か忘れていないか?
幹部社員とは比べものにならない給料で毎日毎日製品なりサービスを生産している「利益の源泉」となっている一般従業員。利益の源泉であるにも関わらず、コストカットのターゲットになるのも一般従業員だ。
転職せずに働き続けている社員や正規雇用を求めている派遣社員をないがしろにし続けながら、幹部社員を外部から登用し、幹部社員の流出には訴訟まで起こす。

転職や幹部引き抜きの激しかった米国金融業界は既に崩壊した。
顧客の変化に追従できなかった新聞業界も再編が始まっている。
(日本の新聞業界は表だった動きにはなっていないが、どう考えても、財務状況は逼迫しているはずだ。部数が減って広告費も減る構造不況業種のハズだ。耐える事ができているのは、これまで、「儲け過ぎ」ていたからだろう。)

●何のための会社?
声なき「長年の顧客」「一般従業員」は、いつまで黙っているのだろう。
あるいは、引き抜きまでしなければ生き残れない会社の「社名」が存続する事に何の意味があるのだろう。
トップ自らの会社への想いが真実の愛なら、その想いは社名に向くのではなく実体のある従業員に向かい、その向こうにいる顧客へと向かうはずだ。しかし、最近では、トップですら外部から登用するのが珍しくないし、滑稽なのは、外部から登用したトップの方が、よほど期間限定のその会社に対して真実の愛を向けられたりもするのだ。(一概には言えませんが)

(幹部の)従業員志向が(従業員の)顧客志向を醸成するに他ならない。
顧客志向を目指す企業に求められるのはサーバントリーダーシップによる真の顧客志向なのだと改めて思った。
ついでに、そんな会社なら従業員同士も仲間としてお互いを大切にできるに違いない。


●変わらないモノ
こんな話を思い出した。
ゲーム業界でのレジェンド宮本茂は、マイクロソフトがゲーム業界に参入する際、任天堂のゲームソフト開発の中心人物である宮本茂を「現在の給料の10倍で」引き抜こうとしたが、「(任天堂には)仲間がいるから」と言って断った。(Wikipediaより)



0 件のコメント: