水曜日, 7月 29, 2009

(ちょっと嬉しくなるビジネスニュース)満足屋履物店


米国の靴のネット販売を手がける「ザッポス」がamazonに買収されたとのニュースを読んだ。
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20090723AT2M2300U23072009.html

「顧客に感動を届けること」自体が感動的
僕は、この「ザッポス」を今回の買収のニュースで知ったのだが、とても特徴のある通販ビジネスを展開している。
"顧客に感動を届ける"会社のようなのだが、その前に、ニュースレベルで感動してしまった。

●ザッポスの地道な取り組み
どんな会社なのか、まず、特徴的なサービスとしてニュースに取り上げられているのが、
・365日間返品保障
・24時間フル稼働のコールセンター
・送料/返送料無料
といったところ。
確かに、365日間返品可能だというのは他に聞いた事がない。
が、これは、まぁ、頑張ればできる話だ。

●ザッポスの更なる取り組み
更に、
・在庫を持つことで配送時間を短縮
・在庫を持つ一方で品揃えも増やす
・コールセンターは内製で決してアウトソースしない。
・新規顧客開拓への投資よりも既存顧客への投資(によるリピート率向上)
ここまでも、なんとかできるだろうし、やっている所も数少ないが存在するだろう。

●ザッポスだけの取り組み(暫くは真似できる経営者は出てこない)
ここまででも十分に凄い。
しかし、更に(この企業規模/販売スタイルでは)凄いのが、
・コールスクリプト(定型応対マニュアル)を用意していない。
・コールセンターオペレーターに大幅な権限委譲。
・よって、オペレーターは、会話時間を気にしないし、クレーム処理はもちろん、売り上げに直接結びつかない顧客サービスもオペレーターの判断で可能、ということ。

●手法ではなく思想
こうなると、これは、もはや頑張るではなく「思想」だ。
この思想は、現場の担当者ほど痛感している考え方なんだけど、管理されたビジネスの現場では「そうはさせて貰えない」のだ。また、ともすると「誤った思想」と非難すらされる考え方だ。

●ムラコミュニティへの回帰
凄い思想のようでもあるが、よくよく考えれば、小さなコミュニティ(離島とか)なら、今も残っているだろうし、そもそもちょっと前の日本だって、そんな社会だったはずだ。
コンビニではなく、よろずや、の社会。

しかし、ザッポスは現代のアメリカでやったのだ。
「コールセンターを本気で顧客満足の中核に据えた」のだ。

●人が売り、人が買う
その結果、感動の連鎖を巻き起こしている。
こんな事例を見つけた。http://cccafe.jp/column/sawakai/post_60.html
「靴を夫のために購入した女性が、翌朝その品を受け取る直前に交通事故で夫を失くし、2~3日後に返品手続きのため電話をかけてきたとき、その電話を受けた係員が彼女に花を贈った」
電話の向こうにいるのは、「人」なのだ。そして、電話を受けているのも同様に「人」なのだ。

上述の「マニュアルが無い」代わりに、相当の教育をしているようだ。
教育の内容についての情報は見つれられなかったが、少なくとも研修終了時にボーナスを支給しているようだ。

そんな風に、"顧客の感動の連鎖"を引き出す事に成功し、高いリピート率(売り上げの70%を超えていると言われている)、顧客の顧客紹介、などなどから急成長し、、、冒頭のamazonからの買収となったようだ。

●企業の価値は従業員の価値
この買収内容にも特徴が出ている。
amazonとしては、買収により"感動をもたらすことの出来る"従業員が離れることを嫌ったのだろう。
およそ1400人の従業員に対し、amazonが現金で4000万ドル支払うのだそうだ。もちろん、買収にかかる費用とは別にだ。
一人当たり単純計算で一人300万円近くの現金が買収によりもたらされ、更に、経営陣の変更も拠点の移動もないということだ。もちろん、ブランドも継続するという。

このニュースは、これから、方々で取り上げられるだろう。人によっては「(買収した)amazonがザッポスに屈した」とまで言っている。
少なくとも、同業他社の現場で「必死に」行われていることのいくつかが、ザッポスでは否定されている。

そして、何が凄いって、電話セールスの世界で最高の顧客サービスが、たかだか数千円~の日常品の通販で展開されていることだ。
それは、最高の顧客サービスは、何も高額商品に限る必要がないと言うことではないか。

●本気の度合い
サービス工学だったり常識的な「効率化手法」だったりでは、実現し得なかっただろう。
このニュースを知って、本気で顧客満足に取り組んでいる企業が、いかに少なかったか、という事にも気がつかされた。

また、こういう経験(感動)をした顧客の、普段の買い物に与える影響も計り知れない。時間はかかるかもしれないが、購買動機の転換が起こっているのではないだろうか。
Webを使ったネット販売ならまだしも、アルバイトを配置し、マニュアルどおりにしかモノを言わせないチェーン店での対面販売を、この"感動"を知った後に満足できるのだろうか。

続報、特にZapposの内情やマネジメントスタイルの情報(日本語でね)に期待したい。

ちなみに、"Zappos Core Value"と題する十か条が公表されている。
(訳は、http://blog.asial.co.jp/570 を参照)
1. Deliver WOW Through Service
  サービスを通じて、驚きを提供する

2. Embrace and Drive Change
  変化を歓迎し、推進する

3. Create Fun and a Little Weirdness
  楽しさと、ちょっと変わったことを生み出す

4. Be Adventurous, Creative, and Open-Minded
  大胆で、独創的な、柔らかい頭をもつ

5. Pursue Grouwth and Learning
  成長と学ぶことを追求する

6. Build Open and Honest Relationships With Communication
  コミュニケーションを通じて、開かれた誠実な関係を築く

7. Build a Positive Team and Family Spirit
  ポジティブなチームを作り、愛社精神をもつ

8. Do More with Less
  無駄を省いて、より多くのことを行う

9. Be Passionate and Determined
  ひたむきで、確固たる意志をもつ

10. Be Humble
  謙虚であること


特徴的だと感じたのは、「誠実」「ひたむき」「謙虚」の三つ。
この三つのキーワードが入ったことで、他の企業でも見かける、「成長」や「愛社精神」や「無駄を省く」の意味まで違って見えてくる。

※はみ出し
靴の販売業から満"足"の革命が起きたことは、何か、面白いなと満足の語源を調べてみた。
満足←満ち足りた状態
足りる←足を付ければ完全な状態になる←人や器物は足が無ければ完全な状態ではない
らしいです。

そう言えば、僕が生まれ育った岩手には、「満足屋」という靴屋さんがありました。
調べてみたら正確には「満足屋履物店」で、どうもホームページは無いみたい。
とは言っても、僕が知っているだけで40年は続いているわけだから、販売スタイルを変えないことで、当たり前の様に満足を継続しているのかな、と、ちょっと嬉しくなりました。

ザッポスの成功がコールセンター業界に変革をもたらすのか、これからの日本語圏コールセンターの動向が楽しみです。

↑この人がZapposのCEO。Tony Hsieh。

2 件のコメント:

ちとみ さんのコメント...

私も初めてザッポスを知りました。
素晴らしい感動の連鎖ですね。
わが社もこのようになるといいな・・・と思いました。

tabclear さんのコメント...

そうですね。こういう会社が増えるといいですね。
ザッポスのような動きが話題になって、その先に、消費者一人一人、自分たち自身が、本当の満足とは何かを考えて、、、という大きな変化があって、ようやく企業が変われるのかなと思ってます。企業は、結局、世の中の鏡でしかないような気がします。