土曜日, 1月 22, 2011

MAN ON WIRE


美しい。
今は無きニューヨークのワールドトレードセンターの二つの頂点の間に浮かぶ人影。
その人影は頼りないワイヤーの上を笑顔で歩いて行く。

当時のフィルムと関係者へのインタビューを中心に構成されたドキュメンタリー映画「MAN ON WIRE(綱渡りの男)」。

その偉業に敬服するというよりも、綱渡りの姿の美しさに魅せられた。
それは、太刀打ち出来ない自然の美しさにも匹敵するような美しさだと感じた。

青い空をバックに、直立の人の影が浮いている。
日常の風景に突如として浮かび上がる、綱渡り師のシルエット。
とても凛とした立ち姿。人間のシルエットはこんなにも美しいものかと気がつかされた。

遠目にはワイヤーさえ識別不可能で、空中を人が歩んでいるようにしか見えない。
そしてそのシルエットは、ただ歩むばかりではない。
時には、その空間の中間地点で横たわりさえするのだ。
それは、横たわる大仏のようにすら思える、畏怖の念を感じずにはいられない光景だ。

映画自体は、その偉業、到底、マトモに許可されることではなく、違法に実現するまでを追ったストーリー
どうやってビルに入るか、どうやって60mもあるビルの間にワイヤーを張るか、どうやって資材を運び込むか、上空の天気は大丈夫なのか、生きて綱を渡り切れるのか、考えれば考えるほど不可能としか思えない。
その不可能にチャレンジする動機は、夢、だ。

綱渡り師フィリップと恋人、仲間たち。
夢が叶った後、彼らは、恋人でさえも、もう交わらない別々の人生を歩んでいく。

フィリップを最後まで支えた親友が、30年以上経った今も、その時の緊張と感動を思い出し、涙を浮かべながら「ここまできて諦めるわけにはいかなかった」と語る。

壮大な夢を成し得た仲間だからこそ、その後の人生は、それぞれの人生を歩むのかもしれない。
人生をかけるような夢だったからこそ一つになったチームだったのだ。

ようやく、暗い記憶にしか重ならなかったそのビルの光景が変わったような気がした。


0 件のコメント: